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アインシュタインの夢 [900番台]

アインシュタインの夢 (ハヤカワepi文庫)

アインシュタインの夢 (ハヤカワepi文庫)

  • 作者: アラン ライトマン
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2002/04
  • メディア: 文庫

摩訶不思議な時間を題材にした短編。

アルバート・アインシュタインが特殊相対性理論を執筆したのが1905年。この本は、その1905年のアインシュタインの特許局での朝の様子と、時間を題材にした短編小説がクロスする、実に不思議な小説になっています。
時間を題材にするということは、だいたいがSFチックになりがちですが、この本はそのひとつひとつの短さもあいまってとことんSFというより不思議な浮遊感があります。

時間といえば特殊相対性理論の軸となるもの、その特殊相対性理論の考え方もうまく取り入れられています。例えば、重力の影響から逃げようとして高地(アルプスの上に、さらに1kmの足場を組んで)に住もうとする人の話。下に下りると重力の影響を受けるから、なかなか下に下りないでいるうちに不健康な生活のために早死にする人たち。時間が止まっている場所の話や、未来を考えられない人たちなど、時間という切り口だけでこんなに書けるものかと感心するくらい様々な「時間の話」が出てきます。

ひとつひとつはそんなに長くはないですが、まとめて読むと少々クラクラする、読むにはそれなりの「時間」が必要な本でした。


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「企み」の仕事術 [900番台]

「企み」の仕事術 (男のVシリーズ)

「企み」の仕事術 (男のVシリーズ)

  • 作者: 阿久 悠
  • 出版社/メーカー: ロングセラーズ
  • 発売日: 2006/07
  • メディア: 単行本

稀代の作詞家の、自分の仕事に対するスタンス。

昨年亡くなった阿久悠さんの自伝的なエッセイです。私の世代はものの見事に阿久悠さんの作品にどっぷりでしたが、こんなにたくさんの作品が阿久悠さんの作品だったとは思わないくらいの作品リストがこの本の巻末に掲載されています。

自伝ではあるものの、それ以上に気になる言葉がたくさん書かれていました。作詞家らしい、鋭い言葉の数々です。

「歌う歌、踊る歌はあっても、聞く歌は求められなくなった。歌の文化が痩せてしまったのかもしれない。」

たしかにその通りかもしれません。ミリオンが出てもどこにも残らないし、最近はトリビュートばかりで新しい歌はたいしたものがありません。現場にいたからこその言葉ではないでしょうか。

「ヘッドフォンで聞く音楽は『聴く』にあらず、『点滴』である。歌は本来あったはずの伝播力を失った。」

みんなヘッドフォンで聞いていて、スピーカーの前で聞くことはなくなりました。そのために「人の口に上る歌」がなくなったような気がします。曲をダウンロードするのも点滴の薬剤の一種なのでしょうか。

「つまらない仕事をつまらないまま終わらせない」

これこそ、トップになる人の仕事のスタンスでしょう。私もこのようになりたいものです。

残念ながらこのような「先達」はもういないのです。


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22世紀から回顧する21世紀全史 [900番台]

22世紀から回顧する21世紀全史

22世紀から回顧する21世紀全史

  • 作者: ジェントリー リー, マイクル ホワイト
  • 出版社/メーカー: アーティストハウスパブリッシャーズ
  • 発売日: 2003/10
  • メディア: 単行本

今年最初がこれっていうのもどうかなぁ。

これは小説です。まちがいなく、小説です。22世紀(正確には2112年)に書かれた、21世紀の歴史本の形を取っています。しかし、SFではありません。SFではないからこそあまりにリアルな内容が書かれています。

これは大きく分けて6章となっています。

・バイオ革命(遺伝子操作からクローン人間の誕生、そして合法的安楽死まで)
・核の惨劇(カシミールをめぐるインドとパキスタンの間で核戦争勃発とその後)
・混沌の時代(株価の暴落と中国の急成長、そして日本の南京虐殺を公に認めさせる)
・新世界秩序の構築(飢餓救済税、EUの崩壊とドイツの国交断絶)
・ネットワークワールドに暮らす(ヴァーチャル・ワールドとネットワークに囲まれた生活)
・21世紀、宇宙への旅(地球温暖化と深刻な水不足、宇宙探査の実現)

クローン人間の第1章や核戦争の第2章は、ちょっと間違うとあっという間にここまで到達してしまう不安が今でもあります。もしかしたら本当にこのような道をたどるのではと思えるくらいのリアルさです。また、第3章の、人が財産を株式でほぼ全額をもってしまったために2日間でダウ平均が40%も下落してしまう時代(この本ではカオスの時代と呼んでいる)も、いつ何時本物になるかの不安を感じさせます。

あくまでもこれは小説(フィクション)であって、事実ではありません。これだけは明言します。しかし、これが22世紀に書かれたものであって、何かの拍子に読んでしまったとしても、おそらく違和感をあまり感じないかもしれません。未来が、私にはこの道をそのまま歩いているようにしか見えないからです。

しかし、まだ今は2008年、この本が書かれた2112年(ドラえもんが生まれる年)ではありません。想像できることは実現する恐れがあると思えば、未来を今から頑張ればきっと変えられるはずです。さしあたって、第6章の環境破壊の部分を読んで、これだけでも回避する努力をしてみませんか?


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再録・点と線 [900番台]

点と線

点と線

  • 作者: 松本 清張
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1971/05
  • メディア: 文庫

ドラマを見ながら、改めて完成度の高さに驚く。

昨日、今日とテレビ朝日系で点と線がドラマ化されて放映されています。基本的にテレビが嫌いなのでドラマなどはまったくといっていいほど見ないのですが、自分が本読みの道に進むキッカケの本であるため、ドラマを見るともなく見てしまいました。

手元に原作があるので「どうなっていたかな?」と思いながらの視聴でしたが、ドラマもよく出来ていて、原作と同じくらいの面白さとなっています。そしてこの作品が今見ても完成度の高さを誇っていることに驚きを感じます。ネタバレになるので詳しくは書けませんが、男女が○○だったから××だと思わせる点が、この作品の最大のポイントであると考えています。そしてこれは、最初に読んだ15歳のときとまったく同じ感動でもあります。

ドラマを見て面白いなと思ったら、ぜひ一度原作を読んでみてください。これが昭和33年に書かれたものであるということを意識しないで。これがなければ時刻表トリックというジャンルはありえなかったことも。


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娘に語るお父さんの歴史 [900番台]

娘に語るお父さんの歴史 (ちくまプリマー新書)

娘に語るお父さんの歴史 (ちくまプリマー新書)

  • 作者: 重松 清
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2006/02
  • メディア: 新書

このお父さんとそれほど年齢の変わらない自分としては、なんとも言えない話が多く・・・

この本は、昭和38年生まれのお父さんが、自分の娘に自分の歴史を語って聞かせる内容となっています。昭和38年といえば、東京オリンピックを翌年に控えた高度成長期真っ只中で、その後オイルショックに続く流れの中で生きてきたことになります。

なんで娘にお父さんが自分の歴史を語ることになったかと言うと、お父さんのお父さん、つまりこの娘の祖父母にあたる人たちの話は、ちょうど太平洋戦争の前後にあたるために、「とても大変な目をして生き抜いてきた」のに、お父さんの歴史には「大きな山場らしきものがないの?」と問われたためです。

とはいえ、大きな変化がないわけではありません。テレビが家に来て、お父さんお母さんではなくパパママに育てられた世代が、このお父さんの世代なのです。「こんにちは赤ちゃん」が流行していた年に生まれたお父さんは、「ふつうである」ことを期待されて育てられてきた時代とも言えます。「一億総中流」と国民の9割が感じていたのが昭和45年、そんな時代だったことを、自分の娘にお父さんは教えていきます。

そして、未来がとても不安な時代になってしまった今、このお父さんは力強くこう娘に言い聞かせます。

「それでも、未来は幸せ(にできる)」

と。これが親のもっとも当たり前の考え方なのかもしれません。しかし、この考え方も微妙な世の中になりつつあって・・・


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臨機応答変問自在2 [900番台]

臨機応答・変問自在〈2〉 (集英社新書)

臨機応答・変問自在〈2〉 (集英社新書)

  • 作者: 森 博嗣
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2002/09
  • メディア: 新書

モノを発想するときに、制約は絶対あったほうがよさそう。

小説家兼大学教授が質問に答える第2弾です。しかし、この本は著者が自身で巻頭に述べているとおり、この質問は決して面白いものではありません。本人が分析しているとおり、今回は一般の読者から質問を募集したために、質問を考える時間が「あり過ぎて」面白い質問がなかったという判断は納得のいくものでもあります。

モノを考えるとき、制限が何もないと逆に何も考えられないというのはよくある話です。第1弾の学生が質問を考えるときは、講義の最後の限られた時間に考えなければならない(=時間の制約がある)状況であるために瞬発力が発揮されて面白い質問が出たようです。それに対し、第2弾は時間が有り余るくらいある状況で質問を考えるのだから(=制約がほとんどない)面白い質問が出なかったと考えると、創造性を発揮する局面がどのようなものかが逆に明確になったような気がします。

自由は制約があるから自由を体感できるのと同じかもしれません。


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臨機応答変問自在 [900番台]

臨機応答・変問自在―森助教授VS理系大学生 (集英社新書)

臨機応答・変問自在―森助教授VS理系大学生 (集英社新書)

  • 作者: 森 博嗣
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2001/04
  • メディア: 新書

試験ではなく質問で成績をつける教授がいます。

これは小説家兼大学教授である著者が、自分の授業で学生に書かせた質問とその回答をまとめて本にしたものです。大学生の、それも建築学科の学生だから頭はいいのでしょうが、質問を見る限りそれほど「賢くない」感じがします。

なぜ質問を書かせるかというと、これで成績をつけるからだそうです。試験を望む学生がいた場合、その学生のためだけの試験を作成し実施するのだそうですが、試験よりもはるかに学生を判断できると考えているのでこれを行っているのだそうです。この考え方は私は限りなく正しいと見ています。質問については「質問志向の技術」や「生協の白石さん」などの本を取り上げていますが、質問を考えること・問題を発見することが、答えを見つけるよりもはるかに能力を要求することを知っているから、この考えに賛成できるのです。

これが限られた時間で考える質問だからキレがあるのですが、全体的にはやはりゆるいかなというのが今の大学生の評価になりそうです。その中で光る質問を出せる学生(少しだけですが)がいることが救いですが・・・


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クリスマスプレゼント [900番台]

クリスマス・プレゼント

クリスマス・プレゼント

  • 作者: ジェフリー ディーヴァー
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2005/12
  • メディア: 文庫

長編の名手の切れ味鋭い短編集。

小説をほとんど読まない私が、その中でも数少ない愛読している作家がジェフリー・ディーヴァーです。魔術師(イリュージョニスト)をこのブログの初期の頃に取り上げて以来、リンカーン・ライムシリーズを中心にほとんどの作品を読んでいます。

この作家の特徴は、ストーリー展開の速さとどんでん返しの連続にあります。最後まで読んで、最後の最後でひっくり返されることもしばしばで、長編は読み終わってもなんかまだ騙されているような気分が残るくらいです。そんな作家が短編を書くとどうなるか?その答えがこれになります。

短編ですから、短いものは20枚、多くてもリンカーン・ライムシリーズ唯一の短編である「クリスマス・プレゼント」が70枚です。そして全部で15編収録されていますが、読み出すとやはり止まらないことは変わりません。そしてその短さの中にやっぱり最後の数行でひっくり返すようなことを平気でしてくれます。この作家の魅力はけっして短編でも見劣ることはありません。

切れ味鋭い作品を好む方、そして短い中に面白さを求める方、必見です。


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座右のゲーテ [900番台]

座右のゲーテ -壁に突き当たったとき開く本

座右のゲーテ -壁に突き当たったとき開く本

  • 作者: 齋藤 孝
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2004/05/15
  • メディア: 新書

これもやはり早く読んでおくべきだったか。

ゲーテとなると「巨匠」というイメージが強く、読んでみようとはなかなか思わないものです。ファウストとか、若きウェルテルの悩みなどが代表的なものですが、どう見てもハードルが高いように感じてしまいます。著者は自身壁にぶつかったときに読み直して(つまり一度は読んでるということか)、新しい発見をしたそうです。その自分の発見をまとめたものがこの本です。

人に発見してもらわないといけないということがちょっと不満ですが、この本を読むと、「ゲーテのようなものを読むべきタイミングがある」ことを実感させます。芥川龍之介のときも思いましたが、高校から大学ぐらいのタイミングでやはり読んで自分の中に入れないとなんかとても損をした気分になります。ただ、岩波文庫は最近非常に値段が張るので、どこかで100円になって出ていないか探すことにはなりますが・・・

読んでも読んでも、読まなければならない本が次から次へ出てくるのがなかなか大変なところです(溜息)


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許される嘘、許されない嘘 [900番台]

許される嘘、許されない嘘 アサノ知事の「ことば白書」

許される嘘、許されない嘘 アサノ知事の「ことば白書」

  • 作者: 浅野 史郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2007/02/26
  • メディア: 単行本

弁明には、弁明する人の性格だけでなく、経営方針、人生観が出てしまう。

上の言葉は、この本で浅野さんが語ったものです。今回これを取り上げようと思ったのは、安倍晋三首相の年金特措法での答弁を見てです。少しキレたような口調で、強い調子で話していましたが、あれを見るとこの人物の「底」が見えたような気がしてならないのです。弁明をすればするほど窮地に追い込まれるように見えます。浅野さんの言うとおり、本人の人生観(今回のことで追求されているうちにキレてしまっている)や経営方針(前任者は好き勝手なことをしたのに、自分はそれができない政治的な不満)が出てしまったのでしょう。あれで信用しろと言うこと自体がもう無理な相談です。

この本は、もちろんこんなつまんないことについて触れるためではなく、浅野さんが知事時代からの言葉について考えたことを綴ったものです。選挙のときの街頭演説は「歌」(歩いている人を立ち止まらせるには、歌のようにリズムやテンポが必要)、個人演説会は「散文」(じっくり聞いてほしいし、支援者=応援している人が聞いている)、選挙カーは「キャッチコピー」「標語」(一瞬で届かなければならない)などの考え方は、非常に分かりやすい例えとなっています。そしてこの本には、市長選挙の新人候補の街頭演説で誰一人拍手しなかったことが書かれています。そう、傍にいた支援者ですら拍手しなかった演説があったというのです。この候補者は「歌う」ことができなかったとも言えそうです。そう考えると、街頭で演説してる様々な人たちは、明らかにヘタですよね。聞くに堪えない人もたくさんいます。これじゃ伝わらないですよ。

最後に浅野「知事」がNHKの週間こどもニュースに出演したときの話。「不適切な事務処理」だと子供には分からないと言われて、「書類に嘘書いちゃったの」と言い換えた話が出てきます。嘘を書いたという言葉の響きの、なんとストレートなことか。安倍総理にもぜひ子供に分かるように今の状態を説明してほしいものです。

「いっぱいありすぎちゃって全部出来ず、ごまかそうとしたの」

ですかね?


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